9箱目 Spec

スペック戦略
1.Full or Half
メーカーサイドからは、相変わらず早いペースでの新台の発表が続いている。上野パチンコ村にて猛暑の中、ショールーム回りをするのもしんどいものであるがせわしい現場から離れて散歩がてら新台の試し打ちをするのも店長さんの楽しみの一つではある。新機種が登場する度、メーカーの営業マンも親切に「この機械については、フルの方が良いですよ。この機械に関してはハーフの方が良いですよ。」と熱心に機械特性について教えてくれる。その多くは新台の初当たり確率を切り口とした導入選択アプローチであるように見受けられるが、ここで当方「ぱちんこ道」は、敏感に反応する。
「一店舗におけるフルとハーフの混在はやめるべきである。」その根拠は再三強調して、恐縮であるが博打場における最重要基本原理は「公平感」の提供であるから、お客様に提供する機械基準は一定に保たなければならないという私にとっては至極当たり前のものである。

2.客心理
同じスタート分間回転数であれば、どうしてもフルの方に多くのお客様が集まってしまう。それはハーフはいくら確率的に甘いからと分かっていても一度何かのタイミングでフル仕様において、単発当たり、時短、確変昇格を体験したお客様はもはやハーフを見向きもしなくなる傾向が強いからだ。お客様は常に良かった時の経験値のみをもう一度、もう一度とばかりに執拗に追いかけるという習性及び客心理を見逃してはならない。ギャンブラーは脳内において、良い思いをした時だけのメモリーがドーパミン液の分泌と共に刻まれているのだから、生物学的にもどうしようもない。

3.新海戦略
新海物語において、M27とM56を混在させて営業しているホールが、M27の稼働が激減して困ったという類の話をされるが、そうなるのは必然であるし、お客様心理から眺めればこれ又至極当然のことである。そうしたことに敏感な地区トップグループのホールは、本年3月時にいち早くM27を撤去してしまい、稼働低下を防いでいる。新海物語は文句なしのホールにおける最重要機種であるし、機種戦略イコール新海戦略と置き換えて良いぐらいに比重は大きい。だからどのスペックを導入し営業の中心に置くのかはホールの命運を左右するほどの一大事である。

4.体力勝負
更に強いホールは、大海が出るまで辛抱するなどと悠長なことは言わず、新海物語M8を大量導入し、常に先手、先手必勝戦略にくるから中小規模のホールはたまったものではない。業界が企業体力勝負の時代に突入してから10数年が経過したが、次から次に元気の良いベンチャー系の新規参入グループが、力任せに強引な出店を仕掛けてくる訳だから、「パチンコ戦国時代」はまだまだ続き、収まる気配の微塵すら感じない。

5.主催者の思惑
競馬、競輪、競艇、オートレースと公営ギャンブル売上減少に歯止めが掛からない。経済不況の時にはパチンコ商売を含めギャンブル商売が栄えるという長く続いてきた市場原理があっさりとくつがえされてしまって久しい。公営賭博に関し、私なりの解釈をすれば理由は簡単明瞭である。主催者側の不必要な思惑が裏目裏目に出てしまう結果客離れに拍車を掛けているに過ぎない。博打場におけるルール設定はシンプルなものほど奥が深く、予測を深く掘り下げるという楽しみ方が出来るというべきであり、長続きするということを主催者は、理解出来ていない。どの種目でも3連単、3連復システムの導入により、高配当を謳い文句に、お客を煽った結果は純粋にその競技種目を愛するファンを亡くしてしまっただけであるというのは皮肉なものである。すでに宝くじ化してしまい、泥臭い人間の皮膚感覚の伝わらない競技などに純粋なギャンブラーたちが身銭を切って追いかけるわけがない。

6.癒し感覚
ここでパチンコビジネスと関連づけ、公営ギャンブル運営の過ちを犯さない為に何を主張したいのかと言えば、まずフルスペックとハーフスペック機種を混在させた営業手法を取ることにより、お客様に「どちらをやろうかなと迷わせてはいけない。」ということ。
今の時流であれば、換金レートに関わらず、フルスペック機種のみ一本で良い。そしてこの方針を支える明確な根拠は「癒し」である。どの分野の商売でも、現代人はすでに多くのストレスを感じ、ひどく疲れ切っているのだから、癒し感覚を取り入れなさいと、どの分野のビジネスコンサルタントも強調する。確かにその通りだ。フルスペック機種における癒し感覚とは単発当たりにおいても、100回の時短が付くというその一点に他ならない。数秒に一度チューリップがゆっくりと開き、玉がポコポコとスタートチャッカーに吸い込まれていき、保留ランプが満タンになる。プレーヤーはいつだって、「満タン状態でそのまま、そのまま!」と心の中で血の叫びを上げているのだから。そう保留満タン状態になっていればどんなにか幸せになれるのにと、非現実離れした甘い幻想を抱いて盤面と向かい合っているものである。「憧れの確変状態」が永遠に続いて欲しいと願うと共に、時短で保留ランプ満タンの状態が少しでも長く続けばと思いつつ、ランプを見ながら、うっとりと癒されているというわけだ。
物理的にもフルの初当たり確率が一頃の1/350あたりから、格段に甘くなってきたことも、雑誌を通じ、多くのプレーヤーが知識として習得し、知っているという背景もフルスペックが旬になった要因として、あげることも出来るだろう。言うまでもなく、その時代の世相とお客様の心理を真っ先に掴み取り、それをどのようにホール営業に取り込められるかの勝負となっているのである。

パチンコ村に行って悩むのは、フルかハーフのどの機種かではなく、フルのどの機種にするかで良いとなれば、悶々とストレスとさえ感じていた機種選定上の悩み事の一つが軽減され、その分癒されたと感じるのは私だけであろうか。