命釘
1. Length of Life
盤面中央にあるスタート賞球口を誰が「命釘」と命名したのか定かではないが、そのホールの明暗がそのサイズの取り方、開け閉めによって、結局のところ決まってしまうことを考えると、ホールの生命線そのものと言ってもよさそうである。
それゆえ、その命釘との常日頃の接し方は、しっかりとしたポリシーのもと、厳格に執り行わなければならず、迷い、戸惑いは、そのままダイレクトにホール営業に跳ね返ってくることになる。
2.命釘論争
命釘の取り扱いにつき、2本の命釘間隔を広く見せ視覚的要素に重点を置く命釘スタイルと、いわゆるメーカーゲージ乃至ノーマルゲージといわれる命釘サイズ板12.25のサイズでS5.6~5.8程度のスタート回転数を維持する「寄り重視」タイプの2大コンセプト派閥に分類することが出来るといえよう。
私の釘師仲間の一人である長老釘師は、前者を「田舎ゲージ」、後者を「都会ゲージ」と区分けしていた。田舎ゲージでは、都会のギャンブラーに見抜かれるという持論でもあった。
それでは、私がどちらの立場を支持するかと言えば、命釘の演出はゲージ構成における最重要部位であるだけに、エリア内における戦略的な部分と切り離して論じることは出来ないとまず考えている。基本的に周りの競合ホールがノーマル寄り重視であれば、命釘を大きく見せるだろうし、回りのホールが命釘を開きすぎ、散らながらバランスを取り、スランプによるストレスを感じさせ過ぎてしまっているような状況であれば迷わず「寄り重視」のゲージ構成にする。
シンプルに言えば、エリア内多数派の逆の思考で勝負するということになる。
これは、戦略的要素の特に強い部分であるから、一律にこれだとは言い切れないとの立場でもある。
3.釘調整による差別化
各エリアに赴き、へそサイズを入念にリサーチしてみると、そもそも命釘サイズによる釘調整による差別化を意識しているホールは、予想以上に少ないし、日本全国的に見れば、1割にも満たないのではないかと言えるほど、少数派であるのは間違いないであろう。
パチンコビジネスにおけるサバイバル手法につき「体力勝負全盛時代」が引き続き進行する中、釘調整による差別化なんて、ちょっと流行らないよと多数のオーナー様に言われてしまうのも実際のところ多い事を告白しておかなければならない。
4.13.00→S5.8
また究極的には、命サイズ13.00でS5.8のゲージと命12.25で同じS5.8ならば、どちらのゲージ構成で勝負したら、お客様の支持を受けるかとの選択になっていくだろう。
ある地区で命サイズが14.50、S5.6で新海M56を運営されていたホールが存在していたが、
命釘をただ広く開ければお客が飛びつくというものでもない。残念ながらそのホールには、閑古鳥が鳴いていたが、直感的に反応したのは、「たとえ夢にまで見た憧れのサトエリが一糸まとわぬセクシーポーズでCome on! Darling! と手招きしていても、これは何かあるなと不安になって体が萎縮し、性的興奮どころではなくなるよ」との不埒な妄想でもあった。
5.命の視点
そうお客様の頭の中は、命釘を見つめながら、玉がスタート穴に吸い込まれていくのをぼんやり眺め、家族のこと、仕事のこと、恋愛パートナーのこと、そして財布の中身を増やすことなどなど、頭の中にはいつも妄想が渦巻いているものだ。そうした頭の中のイメージとかけ離れた「楽しき妄想」を中断させてしまうような釘調整はいずれお客様に背を向けられてしまうものだ。
6.命orデータ
そして、お客様の視点で言えば、徐々に比重が上がってきたのが、機械データに対する鋭敏な感覚である。1000円分何回転回るのかはもとより、前日の大当たり回数、そのまた前日の大当たり回数と「基盤の波」に対する関心が高まっている。昨今この比重は、命釘の広さよりも上なのかというのが正直なところだ。
命釘サイズの話しに戻るが、私の基本ゲージ概念で言えば、平常営業で命釘サイズは13.00に設定し、「回らないというベクトル」でのスランプがなく、逆にある時は「集中的にポコポコスタート穴に玉が吸い込まれていく上昇ベクトル」を伴うゲージの追求である。
ここにおいても、「ギャンブラーは、勝った時、良い時のイメージだけを追いかける」との最重要法則を最大限活用しなければならないと考えている。
つまり玉が集中的にスタートに飛び込んでいく感覚を追いかけてもらうには、どうしたらいいのかと常に考えているわけだ。
7.釘師の美学
昔から、命釘を限界ぎりぎりまで、開きながら、どこまでスランプを発生させずに上手くバランスを取れるのかがその釘調整者の腕の見せ所でもあった。釘師という職人を媒介として、お客様との駆け引きをしながらホールのメリハリ感を創出してきたのだ。多くの釘師が命を広げ、散らし部位での微調整にて、お客様とまた競合店とのしのぎを削ってきたものだ。
善良なホールがハンマー1つで、不正店と格闘しなければならない今の状況とは全く次元の違うパチンコの黄金期が懐かしく、すさんだ業界の健全化を願わずにはいられない。