11箱目収束

確率と釘
1.ホール俯瞰
日々様々な状況下にあるホールにて、釘調整をしているが、絶えず意識しているのは、機械の状態を常に正確に把握しているのかということ。大波、小波、上昇下降気配、ご機嫌良し、ご機嫌斜めという風にその時々で感じとるマシンイメージに差異はあるけれど、個々の機械の気配を感じ取り、その集合体であるホール全体のベクトルの向きを推し量るということを無意識のうちにしている。

2.Feel or Think
「経験と勘」に頼っていた釘調整から脱却すべきだと、最新のホールコンピューターを勧める営業マンがホールに日参する。かたや非科学的釘調整から、科学的理論に沿った釘調整方法をと押し勧めるコンサルタントも大勢いる。しかしながら、釘調整にしても、パチンコ以外のどのジャンルの仕事であれ、私は体内に残っている反射神経的に体が反応するまですりこまれた経験が全てではないかと思えてならない。そしてどちらかというと成功体験よりも、どれだけ手ひどい失敗を積み重ねてきたのかという経験値の方が、体に深く刻まれ忘れずにいてくれることから、後々役立つことになるのではと考えている。

3.Ball Control
玉を出す予定であったのに玉が出ない、利益を取るつもりでいたのに赤字になってしまったということが起きる。
「新海M56を全体平均スタートS6.5にして、大々的に宣伝告知をし、赤字還元サービスを予定していたのに、逆に数百万円抜けてしまった….」
「スタートは、ぐるぐる回っていて、お客様は負けても、きっと納得して、帰ったはずだから問題ない。たまたま確率的に初当たり確率、連チャン確率が辛くなったのだからしょうがない」
このような陳腐で低次元の自己弁護をして、お客様の心理を正確に見抜けない店長釘師がいかに多いことか。

4.客心理
お客にとっては、勝ち負けが全てだ。負けてもスタートが良く回っていたから満足するなどという余裕あるプレーヤーは、全体の1%にも満たないだろう。お客に取っては、少ない投資で何箱分の玉をジェットカウンターに流し込めるのかを絶えず意識しているのであり、スタートが良く回り、当たりが来ないのは、裏基盤操作でもしているのかと勘ぐられているのが実際のところだ。今や25.5%の利息付きで足の速いお金で勝負するという刹那的な状況を抱えるお客の割合が増大している現実がある以上、赤字サービスをすると告知しながら、玉が出なかったのであれば、信頼関係の構築など一瞬のうちに損なわれ、詐欺と思われても致し方ない。ホール内トイレの破損、落書きが増えるのは決まってこんな時だ。

5.最前線スタッフ
出すべき時に出せなかった時、ハンマーを握る右手を切り落としたい衝動に駆られる。
ただ思うのは、クライアントであるオーナーのことでも店長でもなく、ホールに立つ若きスタッフさんのことである。
「2万負けた、3万負けた、5万負けた、全く出ない、この店は嘘吐きだ、金返せ、出しもしないのに過剰な宣伝するな!」と罵詈雑言浴びせられるのは、現場に立ち様々な背景を持つお客様と向き合わなければならないスタッフだからである。

6.釘師の挑戦
格段に進化したホールコンピューターであっても、全体の基盤特性について、上げ下げの気配動向までの予測は、数値化出来ていない。
そして、釘師が近寄れるのは、確率と収束と割数の狭間における、ほんの僅かな範囲での事象に果敢に挑戦し、甘目・辛目の領域にホール全体を引き寄せたり、離したりする事が 可能と言えるに過ぎない。

7.No Excuse !
グランドオープンやリニューアルオープンの初期数日間やホールステイタスを賭けてのイベントでの出玉演出、スタートは回っているけれど出なかったでは、到底済まされない事態になってくる。あれこれ試行錯誤したけれど、機械を機械としてではなく、生き物として扱ってあげればこちらの意向通りに言うことを利かせることが可能であると思えるようになった。
出すべき時にきっちり出すには、機械全体のピークを出したい日に合うように、試験打ちと数日間の段階的な仕込みスタート調整によって、機械の機嫌を取ってあげれば良いという結論に落ち着いた。

8.マシンとの対話
夜な夜な深夜のホールに出向き、魚群発生の度に幾度となく台枠をどつかれたであろう、ヒビの入った上皿付近の微かな痛々しい傷を見つける。タバコの火を押し付けられた火傷のあとも…
そんなマシンの悲鳴に触れる度、
「いつも、すまないね。」
「荒いお客様がいなくなるように、全体を上手く誘導するから、勘弁しておくれよ。」と、誰にも気づかれないようにこっそり何とはなしにマシンを静かにさすっている。