1.Help me!
先日関西のとあるホールへ出向き、釘調整のアドバイスが欲しいとのことであったので、数日間その地区で過ごした。
50歳過ぎの年季の入った店長釘師が釘調整を行うその駅前型のホールは平日平均稼動が20%を下回り、月間平均outも10,000発をすでに切ってしまっていた。換金レートは2.5円交換主流の大阪の喧騒とは大違いな、のどかな雰囲気の街であった。
2.淘汰の波
周囲の競合店を見回せば、市場的には競合店には多数のお客様が存在し自転車にて10分のところにP・S合わせて1000台の大型店が常時60%以上の高稼働を維持している関係上、この新規大型店の進出に伴いそのエリアの既存店は軒並み稼動低下してしまったといった状況であった。新規大型店の長期薄利営業戦略及びお客を裏切らない体力勝負的なイベント戦略の2本立で完全に意気消沈する周囲の老舗競合店舗群。
3.赤鉛筆と○×
閉店後に古いホールコンからはじき出された機械データを手に取りながら、赤鉛筆を手に持ち○×をつけながら、データを確認していく寝不足でお疲れ気味の店長。そのデータを横目で見て愕然とした。アウト、セーフ、差玉、そして大当たり回数の記載しかされていなかったからである。CR機導入前の時代に急遽タイムスリップしたかのようなインパクトを受け、寒いものを感じた。いまだに差玉だけを頼りに機械調整をしているホールの存在に奇跡的なものを感じ得なかった。「経験と勘」が全てと主張し、譲らない店長釘師であったが柔軟で素直な受け入れの姿勢を感じて短期間お付き合いすることとなった。
4.アンバランス
機械を各台ごとに確認してみるとその調整バランスのばらつの落差が予想以上に激しいことに気が付いた。まず、ベースというのが、特賞外の出玉率であり1分間に遊技台から払い戻される玉数であることを説明することから始まり、ホールコン表示出力設定を確認してみると、分間スタート賞球、確率変動ベース、大当たり出玉数値が表示印字出来ることが分かり、一安心した。
5.ストレス性胃潰瘍
釘調整は、いうまでもなくホール運営上の稼動と粗利をコントロールする要の作業であり、粗利を上げる為には割数を抑え、稼動を上げる為には割数を高くしなければならないとの相反する矛盾する事象との終わりなき格闘を強いられる作業でもある。日本全国において一体どれだけ多くの釘調整責任者がストレス性胃潰瘍を抱えつつ、日々格闘していることであろうか。果てしなき格闘の末に一体「答え」が存在するのかどうか分からない深遠なる広がりのある部分であり、多くの者がプレッシャーに負け、挫折して消えていく世界でもある。
6.ゲージ選択
老店長が問う「理想的なゲージとはどんなものですか」と。
一つだけはっきりと言えるのが、「お客に受ける釘」であるのは間違いなく、オーナーや店長の好み、恣意的な部分が二の次であるのは今更説明するまでもないことであろう。
極端な例ではあるが、現実には存在しえないが仮に視覚的には多少見栄えが悪くとも、それで高い稼動が維持され、経営的に成立し、目標粗利を確保出来る釘であれば、それが答えのゲージということで「正解!」である。
7.とにかく公平感!
ホールの調整ポリシーとして「それぞれの機械ごとの個性」を売り物にするグループで地区高稼働を達成しているホールの存在も見過ごせないものであるが、やはり私のこだわりは、ゲージ構成上そのホール運営方針の最重要原理として、「公平感の維持」をまず意識せざるを得ない。この根拠は、機種別にスタート、ベースにばらつきのあるホールでは、一部パチプロ級の腕前で徹底的にボーダーを意識し実践するお客たちだけの勝率があがり、その他のお客は負け越しが多くとなるという現象が必然的に発生するからである。まずは来店されるお客様全てに勝てる可能性を等しく分配すのがギャンブル場における主催者としての最も重要な役割であることは間違いない。
8.ハンマーVS不正
老店長が深くため息をつきながら肩を落とす「近隣店舗の海には皆一様に裏基盤、裏ROMが入り込んでおり、朝一番の飛び込みスタートダッシュの時点から、モーニング、確率操作で勝てるわけがないのです….」と。
全国津々浦々このような溜め息やら、やりきりない思いをどれだけ聴かされたことであろう。私自身、対抗策が見出せずにやけっぱちになり、朝から酒ばかり煽って憂さを晴らしていた時期もあっただけに心情は理解できるが、そのままというわけにはやはりいかない。どのような状況があろうと立ち向かって、戦いを放棄する訳には行かないのだ。
9.戦って死ね!
稼動低下の原因を近隣店の不正操作を理由に努力する気力の萎えた多くの店長釘師を見てきた。客離れの最大要因は日本の経済不況と海シリーズの爆発的ヒットに伴う不正店の増加による業界全体イメージの低下によるところが大であるのはもはや疑いのない事実である。
10.神風
業界浄化の意味合いもある「規則改正」の風が強く吹くこの時期、真の釘調整能力が問われるのは間違いない。そして不正操作という覚醒剤中毒者の如きジャンキーに成り下がった不正ホール経営者が正規の土俵にて経営勝負されることを強く願う。
数日間を通じ、老店長釘師とスタート・ベース数値を頼りに機械バランスを均一化する作業に没頭した。
「Fever機の出始めの頃は、良かったなあ~」
深夜、ぽつりと大先輩がつぶやき、肩で息をしておられた姿が忘れられない。