マナ板放浪記–by まな板ジミー
川口オートレース…結局有り金全てをハズレ車券と引き替えてしまいトボトボと肩を落として歩きながら焦点の定まらない虚ろな目をしたゾンビのような軍団が重い足取りで歩いて駅に向かって歩いて行く。通称西川口オケラ街道に日差しの強いうだるような暑い夏の太陽が燦々と照りつけている。肩をがっくりと落とし敗者となった男たちが本当に情けなくなり、切なくなるのはキャバクラ、ピンサロ、ソープといった風俗の看板を尻目に家路に着く時かも知れない。しかし西川口にはそんな惨敗者たちにとって、ほんの一時、安らぎを与えてくれる場所がある。金もないのに女にありつこうとする飢えた男たちが、次から次へとその小屋に吸い込まれていく・・・そうだ! ストリップ劇場だ!
ご多分にもれず俺も出先のパチンコ屋で全身全霊気合いを込めて釘を打った後や小便カジノですっかり打ちのめされ憧れの最高級ソープ多恋人VIPコースへの夢が儚く散ってしまった時など、秘密の小屋の入り口をくぐらずにはいられない。不思議と博打でこてんぱんにやられ、金がないときに時に限って飼い慣らしたせがれが元気に疼いているから、困ったもんだ。
まったく・・・
張り詰めた神経を急速に弛緩させたくなった時、下手な小細工や駆け引きの要らないストリップ劇場が一番だ。ただシンプルにスコンと抜ければいい。ただ〜それだけでいい。
–すっきりと!–
頭の中に渦巻く思考回路を少しだけ麻痺させたいだけなんだから・・・小屋の入り口を通り抜ける時、それまで博打場で狂っていた金銭の感覚がスーっと現実に戻る時がある。わずか三千円で女とできる! え? どうしてだって? そこのあんた本当に知らないの?マナ板本番ショーのことさ。
–どの公演日程でも、ステージの最後を飾るマナ板ショーの時間になると、にわかに場内がざわざわと騒がしくなる。それまで年増女が踊るだけの、つまらないお飾り的な員数合わせのようなショーなど見向きもせず、スポーツ紙やギャンブル予想誌を退屈そうに読んでいた客までもが「待ってました!」とばかりにステージに意識を集中し始めていく・・・・
「さあ、欲求不満の変態の皆さ〜ん。本番マナ板ショーの始まりだよー!!ハイハイ、けんかしないで仲良くジャンケンポンしてね〜。」
威勢のいいDJの煽るかけ声が、場内に響きわたる。
エミネムのHipHopに乗って、南米はコロンビア出身金髪ダンサーのお出ましだー。マリアとかジェシカなんて名前がやたらと多いんだよね。どういうわけか。やがてダンスが終わるとマナ板ショー参加のケダモノ野郎を選ぶ、ジャンケンオーディションの始まりだ。これに参加する連中がみんな殺気だってヤバイのなんのって。みんなオートで剥ぎ取られた小遣いを少しでもペイさせようだなんて虫の良いことを考えている死んだ魚の目をしたゾンビ野郎達!
うわーー殺気だっている・・・怖い!
でもね、なんとか女にありつこうとする浅ましさが人間らしくて好きなんだけどさ。
いつもこんな風に声を掛けてあげるのーーー。
「ハイエナさんたち! あんたたちには、ジャンケン負けないよ。あたしゃ年季が違うよー」って。え? 俺がどうして本番ショーに出るのかって?これを話すと長くなるからね。今はそんな時間は、有馬記念。
大体、そんな時間があれば一発抜けるじゃないか? あ〜、もったいない。何しろこのステージにデビューしたのが、15才の時だったから。随分経つよ。最初はね、覚えたての英語が金髪姉ちゃんに通じるか試したかったんだ。まじで。。。 Falling love with you. Let’s run away together!ってさ。
そこらへんの、もう人生終わってしまったような枯れたオヤジと一緒にはされたくないな。こっそり告白すれば、俺の体のパーツの全て…ステージ上での赤や緑のライトに照らされながらナイスな音楽でもないと興奮しなくなってしまったってこと・・
そう、大勢のギャラリーに見つめられていると俺のコブラは、もっともっと真っ赤になって怒り狂って暴れ始めるんだよ。
オートの最終レースが荒れ、万太郎車券なんか出た日なんか、もう大変!皆一様にすっからかんで目が血走っている。
本番まな板チャレンジャーが一気に増えちまって、ジャンケンで勝ち抜いて行くのが一苦労だぜ。大概、本番志願者は15人ぐらいになるので5人ぐらいずつのグループに分けられてジャンケンポンをさせられる。まったくサッカーW杯の一次予選じゃあるまいし、早くやらせてくれっての!こっちはもうズボンは脱いじゃっているんだからさ。いつも、小屋のDJ兼用心棒に注意されるよ・・・
「お客さん、ジャンケン勝つ前にズボン脱いじゃだめよ–。しょうがないね—でもがんばって。さあハッスル!ハッスル! Let’s go!」
俺は全然そんなちゃちゃは全然気にならない。今日はきっと勝つはずだからって思い込んでいるわけだから・・・タチが悪いね。人間本気で思い込むと不思議とその通りになるから、嫌になっちゃう。要は執念ってことかな。当たり前だけど、まず予選で勝てなければ本選には出られない。でも、だいじょうぶ。俺もかれこれ30年近くこの修羅場で鍛えられてきたんだ。今じゃ、どろっとしたスペルマが飛び交うこの戦場でどうすれば生き残れるのか、体が自然に反応するようにもなった。ええと、そこでつまりジャンケンだね。金髪女に乗っかりたいが為に、徹底的にジャンケンで勝つ方法を研究した訳さ。え?知りたいって?本気かい。困ったね。こりゃ。企業秘密の、トップシークレットだぜ。まあいいか。つまりね。俺は三分の一の確率で女にありつけるステージ上の最後の決定戦ではチョキを出すことにしているんだ。一番有利だからさ。えっ? どうしてって?うん、自分の庭場みたいな西川口の劇場Tの時は毎度なじみの常連メンバーとぶつかる時が多いからね。やっぱり人前でスッポンポンになって自分のケツの穴を見せながら、スコン、スコンとセガレをぶち込めるような鬼畜野郎はたくさんいそうでそんなにいないのよ。だから顔ぶれはだいたい同じ。当然飢えた狼のようなライバルばかりだよ。
-たとえば、タヌ公だ!-
腹がタヌキみたいにポコンと膨らんでいて太っているくせに、結構上等なせがれをぶらさげやがってさ。こいつとは昔、一晩に何回まな板で抜けるか勝負したことがあったよ。ステージ上では、三発VS三発のイーブンでさ。終わった後、ゴムの中のカルピス見せっこして。ズルしないように確認するんだ。そんなことしている内に、ステージを俺とたぬ公が占拠してしまい、小屋のオヤジも他の客も怒ってしまってね。用心棒に首根っこ押さえられて二人とも追い出されたりしたこともあったけ。俺はこの勝負の続きは蕨OS劇場か大宮のF劇場でつけようって提案したんだけど。
奴は、「今晩はもう勃たねー。出来ねー。この勝負はまた今度。。。」
なんて、泣き入れやがって。
取り敢えず、「西川口の種馬、マナ板ジミー」の看板は渡さずに済んだってわけなんだけど。自慢話しばかりでごめんね。
そうそう、ジャンケンの話をしていたんだよね。つまり、お馴染みのメンバーと勝負するときは、過去のデータが大切になってくるんだ。このデータをインプット出来ないようなノウタリンは、とてもじゃないがマナ板本番女にはありつけないよ。悪いけど….まあいいか。なぜ、チョキが有利なのか説明するよ。大方の一般人なんて、気合いが入って興奮し理性を失った状況下にいるほど、
「なんとかして、欲しいものを掴みたい!」
という心理が強烈に働くもので、少しで早く多くのモノを掴みたいとの心理から、手をパアにして開いてしまうものなんだ。
それと大切なのは、その回のまな板にありつけなくても、一日に五回も本番ショーはあるのだから、次の勝負の為に、ライバルたちがジャンケンで出すパターン目を覚えて置くのが最大の秘訣なんだ。この辺の呼吸が呑み込めたら、素人の段階は卒業だろうね。そしていよいよ本番ショーの段階だ。ここでどのようにパフォーマンスをするかによって、そいつが本番マナ板野郎として、一流か二流なのか、はたまたトウシローなのか格付けが決まってしまう。大事な局面なのは言うまでもない。
ーーーそう、なんとか、絵にならないとねーーー
つまり運良くステージに上がれたとしてもここからが百戦錬磨の経験が必要とされる肝心の部分ってこと。
あの憧れの晴れ舞台に上がったことのあるものなら誰でも、ジャンケンで破れ去った者達の強烈な羨望の眼差しを一心に受けることになる。そして、結局自分自身で、
「俺のジュニアは大丈夫だろうか。元気になるかな。」
と、プレッシャー地獄に突き落とされ、その挙げ句、ダメになってしまうチャレンジャーが9割だ。でも男はメンタルだからなんて言い訳は通用しないよ。あそこでは。どこへも逃げ場のない戦場みたいなものなんだから。周囲のケダモノどもから凝視され熱視線プレッシャーに押し潰され、急性心因性インポになったり、勃起不全射精をしてしまう情けないハッタリだけのマナ板志願者たちの哀れな姿が目に浮かぶ・・こんな精神が未熟で神経の細い奴らには待ったナシで情け容赦のない、
「ザマアミロ光線!」
がこれでもかこれでもかと浴びせられ、おずおずとゴムの緩んだパンツをはき、ズボンに足を差し込みながら、惨敗者たちはうなだれた顔を上げることも出来ずに、小屋の出口に向かうことになる。これを解消するには、やはり場数を一つでも多く踏むことだ。俺は舞台の上では集中力を高める為に、耳にパチンコ玉を入れておく。俺の頭の中では、舞台の上でやるのではなく自分で引っかけた女と高級ホテルの一室で、今まさに心の底から愛し合おうとしているという確固たる設定が既に出来上がっているのだよ。まあイメージトレーニングというやつだな。妄想設定はその時々によって替えるようにしているが、基本は自分が気分良く抜けるかどうかにこだわっているのは当然だ。それといつも気にするポイントは、舞台に登りたくても上れなかった客達の無念な気持ちを考慮し、少しでも惨敗者達が喜ぶようにと見せ場を作って上げようということ。連中が見たいのは、ズバリ愛のジョイント部分。もう、これしかない!
-大蛇をすっぽり呑み込んでいる愛くるしい観音様だ!-
俺は女の足を大きく開いて浅く、せがれをインサートすることにより、観客どもの視点を意図的にそこ一点に集中させていく。そう、客の方からまる見えになるように工夫して合体してあげるんだ。いや、本当は俺自身の煮えたぎるようなパッションを見せびらかしたいだけ。俺のブツを披露することによって優越感に浸ることが更なる高度のエクスタシーにつながっていく事を体が覚えてしまっただけなんだ。でも、イク時は深く差すから、シリが上下にパコン、パコンしているのしか、客席からは見えないようになってしまうのだけれど…良い汗かいて、あちらこちらから、深い溜息と共に気合いの入ったパフォーマンスに対し、拍手喝采が起きる頃、本当に俺が発射したのかどうか。チェックするご苦労なじいさんたちが多数いるんだ。ちゃんとイッてるてば! もうほんとに疑がり深いんだから、メッ!
そんなおせっかい焼き達の為にひょいとサオを持ち上げ、ゴムの中にたっぷりと貯まった熱いマグマを見せてあげるんだ。
満足そうにうなずく一般サラリーマンを中心とする小心者の群れ….
「とっとと家に帰って、かあちゃんのケツでも触って寝ちまいなよ! 博打で負けたときは布団被って寝るしかないんだから!」
俺は舞台の上から、勝ち誇ったボクサーのように鋭い視線で場内を見回す。
–「恍惚と不安」我に有りってか–
この時に浴びるスポットライトの眩しさ。
ガンガン響く、32ビート。
哀愁のヨーロッパ by サンタナ…
物悲しくて優しいギターの音色に包まれながら溶けはじめるスピリット。その瞬間、体だけでなくハートも一緒にものすごいスピードで、昇天していく。この感覚に酔える限り、俺はここで、ジャンケンを続けていくんだろうな。
グー、チョキ、パー。
舞台で手招きする踊り子さんの笑顔と生暖かい観音様の吸い付くような感触だけがエンドレスに螺旋状に頭の中を駆けめぐりドーパーミンとアドレナリンがミックスされた興奮感覚だけがゆっくりと渦巻きながら脳内melt downしてイク・・・
Show must go on!
ストリップで会えたらいいね。